2014年5月2日金曜日

特殊建築物定期報告制度について

本当に必要な特殊建築物定期報告とは

福岡県福岡市で建築設計の仕事をしていますが、特殊建築物定期報告制度について、ある方から相談を受け、気になることがありましたので、書くことにしました。

特殊建築物定期報告制度、下記は福岡市のホームページですが、制度の概要や、調査報告が必要な施設の規模などが示されています。

http://www.city.fukuoka.lg.jp/jutaku-toshi/kansatsu/life/008.html

ア.特殊建築物等(劇場、映画館、病院、ホテル、共同住宅、学校、百貨店等で一定規模以上のも  の)
イ.昇降機(エレベーター、エスカレーター及び小荷物専用昇降機)
ウ.遊戯施設(コースター、観覧車、メリーゴーラウンド、ウォーターシュート、ウォータースライド等)
エ.建築設備等(換気設備、排煙設備、非常用の照明設備)
  イ.はエレベータメーカー等に直接依頼すれば安価にできます。
  ウ.は専門外なので説明できません。

外壁の打診調査の必要充分条件
調査の全体について書くのではなく、
この調査の中でも、最も手間と費用がかかる部分、「外壁の打診調査」について書こうと思います。

1912年に発生した、笹子トンネル天井板落下事故が発生した際に、その点検体制として、
「吊ボルトの検査において、トンネル頂部は、数メートル離れていて手が届かない為、打診調査は行われず、目視の調査」が行われていた、と報道されました。
常に、真下に車が往来し、落下すれば、即、死に至る数トンのコンクリート板の点検体制としては
あまりに不充分な点検しかされていなかったことに驚きました。
土木の方が建築よりも単価が高く、点検なども、事故が発生した場合の被害や影響の大きさから、より入念に行われなければならないし、そうのように行われていると思っていたからです。

建築の、特殊建築物定期報告制度においては、たとえ、手が届かない部分においても、タイルが落ちて人が怪我をする恐れがある箇所は、寄付きが困難な高所でも打診調査を求めています。

この打診調査が必要な箇所について、
上記、福岡市のページの最後に列記されている「質問および回答」の中に詳しく述べられています。
特に
「建築物外部のタイル、石貼り等、モルタル等の劣化及び損傷の状況に関する調査について」

http://www.city.fukuoka.lg.jp/data/open/cnt/3/9629/1/H20kenchikukaitou2.pdf

の中に、外壁について打診調査が必要な建築やその時期、打診が必要な範囲が示されています。
このページの内容を、より解りやすく説明したいと思います。

打診調査には、部分打診全面打診があります。
a.部分打診
廊下や屋外階段・バルコニーなどから、手が届く範囲を打診する。
面積割合では、外壁全体の数パーセントを打診したことになり、建築の劣化の概略を            把握することができます。

b.全面打診
手が届かない範囲も、足場・ゴンドラ・ブランコなどを使用して、打診が必要な部分の全て を打診すること。検査対象の100%を打診するので、検査対象の劣化の状況を具体的に把握することができます。

■全面打診は、建築全体打診ではない
法令では、
落下により歩行者等に危害を加える恐れのある部分のすべてを全面打診等と規定されており、
即ち「ある一定部分についての全面打診」すれば良いとされています。
ところが、全面打診については、建物全体の打診と混同されているように思います。
このことについては後述します。



築年数35年までの塗装壁は全面打診は不要?
全面打診の対象となる外壁とは、 「落下により歩行者等に危害を加えるおそれのある部分」
ですが、それはどのような外壁でしょうか。

原則(解かり易く省略した表現とします)
タイル張りモルタル塗り外壁が対象になる部分です。(石張りも対象ですが省略します)
仕上げが構造体から剥離して落下する恐れがあるため、落下する恐れがあるものが対象となっています。
注意したいのは、コンクリート塗装仕上げの建築の部分は、全面打診の対象外です。

①タイル張り、②モルタル塗り、③コンクリート打放(塗装仕上げ含む)見分け方をまとめてみます。

タイル張り は素人でも容易に判断できるでしょう。

モルタル塗り
外壁がモルタル塗りとは、白や茶色など、塗装している建築が、モルタル塗りの可能性があります。
塗装の上からだと、コンクリートに直接、塗装しているのか、コンクリートにモルタルを塗りその上に塗装しているのか、素人では判断が難しいです。
しかし、
近年の鉄筋コンクリート建築(おおよそ築35年より新しいもの)は、外壁にモルタル
を塗っていません。コンクリート打放に塗装(吹付タイルを含む)していますので、落下するモルタルは無く、よって、全面打診は求められていません。
それより古いものは、図面が有れば、仕上表や矩計図を確認すればモルタルを塗っているか否かわかります。

コンクリート化粧打放:文字通り、コンクリートを露出させた外壁なので、容易に判ります。

コンクリート打放塗装仕上げ:塗装(吹付タイルを含む)している場合、前述のように、モルタルの有無が難しいのですが、
おおよそ築35年より新しい建築は、モルタルを塗っていません。落下するモルタルは無く
よって、全面打診は求められていません
但し、老朽化により、鉄筋が錆びて爆裂を起こす可能性もあり、この法令とは別に、一定間隔で外壁改修が必要です。

特殊建築物定期報告制度について延べたものであり、一定規模以上の建築について書いたものです。個人住宅などでは、外壁にモルタルを塗っている例は、現在でもたくさんあります。

  打診が必要な範囲 図入りで解説しましたので、ご覧になりたい方はどうぞ
  >>>シード建築設計事務所  特殊建築物定期報告  のページへ



危険な外壁とは
次に、全面打診が必要な 「落下により歩行者等に危害を加える恐れのある部分」
とは、どのような部分でしょうか。

外壁から仕上げが剥落した場合、当該部分の高さが高い程、落ちる範囲が広くなることから、
外壁の直下から高さの1/2の範囲までを、危害を加える恐れのある部分とし、
この範囲に、公道、不特定または多数の人が通行する私道、構内道路、広場を有するもの
となっています。

具体的に、例を挙げると、
例1
建築が道路に近い( 建築から道路の距離 < タイル壁の高さ÷2 )場合、外壁の東西南北の4面のうち道路側は全面打診となるでしょう。
残りの3面については、敷地の利用形態により異なりますが、不特定の人が通行する・多くの人が通行する通路があれば、全面打診が必要ですし、
通路や広場がなければ、特殊建築物定期報告制度では全面打診は求められてなく、目視および部分打診で調べることになります。

歩行者等の安全を確保するための対策
また、通路などの上部に ひさし等 が有り、仕上げの剥落があっても、ひさしが受け止めて、歩行者等に危害が及ぶことがない場合は、そのひさし等により防護できる外壁タイルの範囲は、全面打診から除外し、部分打診とすることが出来ます。

例1の公道に面して、充分なひさしがあれば、エントランス周りの「歩行者等に危害を加える恐れのある部分」の面積が減るので全面打診が必要な面積も小さくなります。

注意したいのは、建築の高さ・外壁の高さではなく、「タイル張り(モルタル塗り含む)の部分の高さ」であるということです。
特に、低層階だけにタイルを張っている建築においては、「歩行者等に危害を加える恐れのある部分」の面積が減るので、全面打診をする面積は、かなり狭まります。全面打診しなくてよい部分は、目視および部分打診は必要です。

■法の要求を見極める
こうしてみると、特殊建築物定期報告制度では、「10年を経過した建築は、一律に足場を架けて、
外壁の全てを打診せよ」、というような過大な要求はしていません。

建築によっては全面打診ではなく部分打診でも調査できる部分は少なくありません。
これは、決して、調査を簡便に済ませて調査費を削減できることを強調している訳ではありません。
前提として、10~15年毎に、足場を架けて外壁のメンテナンス(外壁改修)をすることは必要です。これが前提の話ですので、全面打診をしなくてよい部分は、永遠に打診しなくてよいと言っているのではありません。
では、何故こう書くかと言うと、特殊建築物定期報告制度を利用して、一部の会社が、建物全体の打診の必要が無いにも関わらず、拡大解釈し、足場を架けて建築全体の打診を勧める例があるようです。

■外壁打診調査の費用(特殊建築物定期報告に必要な費用)
全面打診は、部分打診に対する言葉ですが、一方で建物全体の打診」と混同して使われているように思います。

建物1棟全体の打診調査に必要な費用(建築の規模・用途により異なります)
  a. 部分打診調査:数万円~
  b. ブランコやゴンドラ:100万円前後~
  c. 足場を架ける:数百万円~

形状によって、部分打診だけで調査できない建築もあり、その場合は、 a と b を組み合わせる、
b または c を選択するということも有ろうかと思います。


しかし、
調査のためだけに ブランコやゴンドラ、足場を架けることは経済的ではなく、
10年~15年毎に、大規模改修(足場は必須)を行いながら、
3年ごとに目視および部分打診し、定期報告制度だけのための全面打診を回避することが現実的です。


■調査費以上に大きな問題も
調査費用について、調査方法により大きな開きがあることは注目すべきことですが、
足場を架けて定期報告制度の調査を行うということはには、もっと大きな問題が潜んでいます。

調査だけのつもりで足場を架けても、必ずひび割れや浮きが見つかりますので、
調査だけで済まず、そのまま大規模修繕になだれ込むことになります。

「折角、足場を架けたので、補修工事をした方が「お得」ですよ。調査だけで足場を解くと
工事の時に、再度足場を架ける必要があり、勿体無い。お安くしときますよ。」
ということになります。補修をすると跡が残りますので、塗装工事も必要になり、
補修工事という名の大規模修繕工事が始まります。

そうなると、事前の設計数量の計算や、予算の検討、工事会社の競争見積りや、
監理者・第3者のチェックなどが一切ないため、競争のない単価で工事を発注せざるを得な
くなり、工事数量の清算において第3者のチェックがされないままの精算となります。
下記のページの後半で説明しています。(シード建築設計事務所のページ)

http://www.seedhp.com/works/workskaisyu2.html

マンションの場合、入居者に対しての周知徹底や準備も無く、騒音や粉塵のついての心構え
もないまま工事に入ることになります。

競争の無いまま、調査から改修工事に移行することは、費用が無駄にかかってしまいます。
改修工事(補修工事や塗装工事)は、調査より、はるかに費用がかかる(数十倍~100倍以上かかる)事業規模なので、
改修工事では、しっかりと競争見積りで工事費を抑え、調査では必要十分な調査を行う。

前述したように、定期的な外壁のメンテナンス(外壁改修工事)は足場を架けて行い
定期報告では目視および部分打診で済むように建築の保全計画を立てておくことが重要です。

                                                                       シード建築設計事務所
                               一級建築士 種生明徳

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2014年4月21日月曜日

4月からの建築関連法の改正


4月から消費税が引き上げられましたが、建築に関する法令も改正がありました。
住宅ローン減税
10年間の住宅ローンの減税額がこれまで最大200万円でしたが、400万円まで
引き上げられました。
また、年収510万円以下の住宅購入者に最大30万円が支給されます。年収により額が変わります。
ここまでは、テレビや新聞でも報道されているとおりです。

耐震診断 補助金 26年度分の受付が開始されました。要綱の公開は少し遅れるようです。
建築物の耐震改修の促進に関する法律により耐震診断が義務付けられる建築物が耐震改修をした場合の固定資産税の減額措置が受けられます。
工事の翌年度分から2年度分の固定資産税について、税額の2分の1を減額(ただし、補助対象改修工事に係る2.5%が限度)する。

2014年4月16日水曜日

耐震診断補助金

平成25年11月25日に、改正耐震改修促進法が施行されました
が、福岡県の耐震診断の補助金の受付が開始されたようです。

お知らせの枠の中に 「受付を開始しました」



そのリンク先に「本日より開始いたします」となっています。(H.26.4.16)

http://www.taishin-shien.jp/info.html#001


(H26.4.17加筆)
開始しましたとなっていますが、要綱がまだ公表されてなく、5月中旬になるそうです。

(H26.4.21加筆)
耐震診断が義務付けられる建築物が耐震改修をした場合、固定資産税の減額措置
を受けることができます。建築士等の証明書を添付して申告が必要です。




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2014年4月2日水曜日

中古住宅の質の向上をめざして

平成26年度税制改正(本年4月1日より施行)において、個人が宅地建物取引業者により一定の質の向上を図るための、特定の増改築等が行われた中古住宅を取得した場合の登録免許税の税率が一般住宅特例より引き下げられる特例が創設されました。
また、耐震基準に適合しない中古住宅を取得し耐震改修工事を行った場合の住宅ローン減税等の適用も受けることが出来るようになりました。




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